8 ベールの向こう
アラブの女性のファッション。
みなさまはどんなものをイメージするのでしょう?
アラブにはじめて関心を持ったころの私は、アラブのファッションに関しては漠然とした印象しか持っていませんでした。おそらく多くの人も黒く足元まである外套のようなものを着、ベールで顔を覆っている光景を思い浮かべるのではないでしょうか。
確かにそれは間違いではないでしょう。
実際に赴けば、そういった格好で行きかう女性たちに出会うことができます。
ただ、ベールで顔を隠すと言っても様々です。顔全体のこともあれば、顔のうち目を除いた部分だけのこともあり、顔は出して髪だけを隠している場合もあります。それはエリアや人々によって多様に変化します。ただ、みんな一様に外套のようなものを着ていることには違いないでしょう。
しかし、それは外出しているときの彼女たちを見ているに過ぎず、その下はどんな服装をしているのか、目にした人は少ないでしょう。
想像してみてください。あの下がどんな服装なのか?
ここでちょっとベールそのものについて一般的に言われていることを考えてみましょう。
みんながベールと言っているものは、ヒジャブ、あるいは二カーブと言われることが多いようです。ちなみに、黒い外套のようなものはアバヤと呼ばれたりしています。国や地方によって呼び方は様々なようですが、ここではそんなに深く触れる必要はないでしょう。
近年の西欧諸国において、男女同権の意識が高まっています。この流れは中東におけるベールを着ける習慣にも向けられ始めています。その主な内容は、ベールは女性の行動を抑圧し、社会進出を遅らせる原因になっているといったものです。
アラブの考え方では、女性は男性から好奇の目を向けられがちで、ベールはそういた視線から女性を守るものであり、それをつけることによって女性も気兼ねなく外出できるということになります。クルアーン(コーラン)にもベール着用に関して記述がありますが、イスラーム以前からの風習として存在したとも言われますから、その由来ははっきりしません。
ただ、このような考え方のもとで、大人になった女性はベールをつけるべきであるといった習慣が根付いたようです。ちなみにイエメンでは14歳になったらベールを着用するようになっていると聞きました。
また、社会的に家族の長(男性)は一家の女性を外から(この外も男性の意味でしょう)守らなければいけないとの意識が高いようです。
レストランなどでも、女性限定のスペースが店の奥にあったりします。そこに立ち入ることのできる男性は女性を連れているものだけに限られます。男性が、街中を連れ立って歩くことができる女性は家族ぐらいのものですから、店で一緒に食事をする相手も家族の女性に限られるでしょう。よって男性が友人の奥さんやその娘と共に食事の時間を過ごすことは、基本的にありえません。 なぜなら、ベールをつけたまま食事を摂ることはできないですからね。
また、ある女性アラブ学者の本には、女性自身もベールがあるほうが気楽でいいといった意見が多いとの文章があったりもします。アラブの女性を立ち入って取材できるのはやはり女性ですから、こういった声があるのは事実なのでしょう。
アラブ社会の外から見ると抑圧的なイメージを抱きがちですが、身に着けている当人たちの中には意外と重宝している人たちもいるのかもしれません。
さあ、ではアバヤの中はどうなっているのか?
たっぷり想像してもらえましたか?
女性のファッションにたいする興味は、もはやどの国も同じになったような感があります。欧米のブランドを身にまとったモデル達が世界中のメディアに登場し、あらゆる社会・文化に暮らす人々を魅了する時代です。その中に、もちろんアラブも含まれるのです。
そうなると、必然的にアラブの女性たちが着けるファッションも、我々に馴染み深い欧米のそれと大きな違いはできません。
そしてアバヤが黒やダーク系の色のものだからというのもあるでしょうが、相対的に華やかな色彩のものが多いように思います。あるいは、アバヤを身につけなくてもいい家の中では明るい色とりどりのファッションを楽しみたいという気持ちの現れでしょうか。
街中にもアパレル店は存在し、通りに面してウインドウがあり、マネキンが色鮮やかな衣装をまとって行きかう人々を眺めています。日本でも、欧米でも一般的な街角の光景です。
緑が覆い茂り、花が咲き乱れ、きれいな小川が流れているというのがアラブにおける一般的天国のイメージですから、それを連想させるような色彩のものが多いのかもしれません。
日本のような猥雑な看板の群れがない町の色彩は、全体的に白や土壁の色が多く、その中で鮮やかな色彩が並ぶショウ・ウィンドウはさながら砂漠のオアシス、天国のように見えなくもありません。
女性のファッションの話だけに終始するのも、片手落ちの感がありますから、男性のファッションにも触れてみましょう。イエメンに限定して。
イエメンの場合、基本的には民族衣装であるザンナ(白いワンピース)を着け、サナア近郊では腰にジャンビアを携えています。
最近の流行は、もはや定番になった感もありますが、その上にジャケットを羽織ることでしょう。
何枚も重ねたジャケットを片方の肩に掛けている売人を街中でよく見かけます。そのほとんどはヨーロッパからはるばる渡ってきた古着たち。ローティーンの男の子からビジネスマンまで、ザンナとの組み合わせはまったく違和感なくはまっています。そしてジャッケットのお腹のところにジャンビアを覗かせ、サンダルを履いているのがサナアの男性ファッション。
イエメン内の他の地域に行っても大きくは変わりません。
ジャンビアがなくなるくらい。ジャンビアをつけている者はサナアから来た者とすぐに分かります。
ところが、さすがに最近は若者を中心にですが、ジーンズなど西欧のファッションを楽しむ人たちも増えてきています。シャツを着て、スニーカーを履いて。
こういったファッションが多数派にならないとも限らないでしょうね。
イエメンではまだ目立ちませんが、西欧文化を積極的に受け入れる姿勢のあるアラブ諸国ではジーンズ姿で外出する女性達も見受けるぐらいですから。
伝統的な民族衣装が日常から消えていくのは世界的な流れでしょう。それにともなって無くなっていく習慣や技術もあるでしょう。
ただ、一方でチャンネルが多様になってきているのも確かです。伝統的なものを残す努力をし続ける中で、それらを元に新たなものが生まれてくるのは楽しいことです。個人がファッションを自由に楽しめる時代が世界におとずれたら、きっとすばらしい時代になるでしょうね。
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